絵本がSDGsの入口になる
子どもが何に一興味を持っているか
――なぜ、「絵本でSDGs」なのですか。
「絵本でSDGs推進協会」は2018年に設立しました。SDGsを学んだあと、目標の達成に向けて熱心にやっている人がいるものの、活動がなかなか広がっていないように感じていました。また、当時もSDGsを小学生向けに解説したものはありましたが、大人が読んでも難しいものばかり。〈絵本で紹介すれば分かりやすいのに〉と思ったのがきっかけです。
例えば、目標6「安全な水とトイレを世界中に」。水やトイレの大切さを考えたり、学んだりできる絵本は以前からたくさん出版されています。しつけ絵本、物語を楽しむもの、教育的効果のあるもの、写真絵本。絵本は本当にいろいろあるんです。私は絵本専門士ですから絵本を紹介したい。絵本を使ってSDGs、世界とつながりたいと考えました。
――家庭でSDGsを学ぶにはどのように絵本を選べばいいのでしょう。
まず、子どもの周りにいる大人がSDGsを知ることが大切ですね。
絵本を選ぶ上で大切なことは、SDGsを知る目的以外でも同じですが、子どもがいま何に一番興味を持っているか、どんなことが好きなのかを知ることです。電車が好きなら電車の本を手に取らせてあげてください。電車もいろいろあります。電車に飽きたら新幹線、機関車、今ならリニアモーターカー。さらに乗り物全般に広げていくと、飛行機や船、働く車、宇宙ロケット。さまざまな絵本に触れて、何度も読みたくなる一冊を見つけてほしいですね。そうした本に出合えるのは幸せなことですから。
子どもがさまざまな絵本に触れたときに、大人も一緒に読んで話をしたり、少し誘導してあげたりすると、子どもなりにSDGsの17の目標につながる、気になるテーマが出てくると思います。乗り物が好きな子であれば、目標11「住み続けられるまちづくりを」や目標8「産業と技術革新の基盤をつくろう」かもしれない。その子の関心事と、SDGsにかかげられた社会の課題との接点が何となくでも分かれば、さらに興味や関心を深めることのできる本は本当にたくさんあります。ぜひ図書館を利用したり、購入して家でいつでも手に取れるようにしてあげたりしてほしいと思っています。
大人の“想像力”と“柔軟性”が子どもの世界を広げる
――親として、子どもに読んでほしいと思う本もあります。
大人の与えたい本が子どもの読みたい本ではないというのはよくあることです。図書館で両方を借りて、子どもの読みたい本を楽しんだあと、「次はお母さんがこれを読みたいから、一緒に聞いてね」と読み聞かせをするのもいいでしょう。
最近では、目標14「海の豊かさを守ろう」に関連するプラスチックごみを扱った絵本など、巻末に解説が付けられているものが増えています。自由研究のテーマにしたい、もう少し勉強したいというご家庭であれば、解説を一緒に読むのもいいですね。ただ私としては「勉強するぞー」と絵本を使うのではなく、まずは楽しんでもらいたい。絵本をいろいろなことを知るきっかけにしてほしいと思っています。
私はどんな絵本もSDGsにつながっていると思っています。大人が「子どもの未来にとって大切なものはなんだろう」と考えながら絵本を読んでいくと、気づくことがあるはずです。大人の想像力、柔軟性が必要ですね。
――絵本を通してSDGsを知ったあとも大切ですね。
知っただけでは何も変わりません。一人ひとりが“はじめの一歩”をふみ出すことが目標の達成につながります。私が「絵本でSDGs」の講座や学校で読み聞かせをしたときには、子どもたちに「今日知ったこと、覚えたことを3人に伝えてね」と言っています。1人目のときはたどたどしいかもしれない。質問を受けたり、疑問に思ったりしたことがあったら復習する。そうすることで2人目のときは上手に伝えられるようになります。3人目になると、もう最初から知っていたように話ができるでしょう。うれしくなるし、「世界の問題をみんなで考えている」と感じられると思います。ぜひ皆さんもやってみてください。
講座やイベントで各地を訪問しますが、例えば山や森がある地域であれば目標15「陸の豊かさも守ろう」、海が近ければ目標14「海の豊かさを守ろう」、また、町に発電所があれば目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」につながるものというふうに、参加者が身近に感じられる絵本を紹介しています。子どもたちにとっては目標4「質の高い教育をみんなに」が身近なテーマであることは言うまでもありません。不安を煽るのはあまりよくないですが、目標16「平和と公正をすべての人に」を伝えるときは「戦争が起きるとゲームもできなくなるよね」というように話しています。
SDGsの17の目標のなかには、ご自身やお子さんが身近に感じられるものが必ずあるはずです。絵本をきっかけにそれに気づいて、「他人ごと」ではなく「自分ごと」にしてもらえるといいなと思っています。
あさひ・ひとみ
「絵本でSDGs推進協会」代表理事。 学校図書館司書。JIPC読書アドバイザー。絵本専門士。 20年以上絵本の読み聞かせや紹介を続け、現在は学校司書として新潟県糸魚川の小・中学校の図書館に勤務。絵本専門士の資格を活かし、2018年より「絵本でSDGs推進協会」を立ち上げる。全国各地で絵本とSDGsをつなぎ、「自分ごと」として考えるきっかけづくりを提案している。「絵本のある場所がSDGsの入口になりますように」とHP等で発信中。2021年、日経ウーマンエンパワーメント賞を受賞。 https://ehonsdgs.amebaownd.com/